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概要編集

ウィキペディア日本語版は2001年5月頃に発足したものの、当初は編集者も少数で、ローマ字表記の項目が約23項目とコンテンツもほとんどなく、認知もほとんどされていなかった[1]。2002年9月のシステム更新によって日本語表記に対応するようになり[1]、2003年から2004年にかけていくつかのマスメディアで取り上げられたことがきっかけとなって認知され始めた。漫画やアニメのトリビア的な記事、声優の紳士録的記事など、日本語版ならではの記事が急増した時期もこの頃である。

2005年以降はWeb 2.0ブームの一端として大手マスコミにも取り上げられるようになり、インターネットに接する一般市民にも認知されていった。現在では検索エンジン最適化により、Google検索を初めとする検索エンジンで記事が上位に表示されることもあって、認知度や閲覧数も高い。一方で、記事の内容やサイトの運営などに関し、様々な課題も指摘されている[2][3]。

「ウィキペディアへの批判」および「Wikipedia:なぜウィキペディアは素晴らしくないのか」も参照

主な特徴

他の言語版に比べた特徴を述べる。

規模

2019年10月現在、純記事数では、13位の規模のウィキペディアであり(主要語にラテン文字が用いられないウィキペディアとしては、ロシア語版に次いで2位)、最大の英語版の約5分の1の規模である。2005年上期までは英語版、ドイツ語版に次いで純記事数3位であったが、その後は他言語版に抜かれている。なお、内部リンク数は、3位を維持し続けている(後述)。

法的制限

日本の著作権法は、アメリカ以外の多くの国と同様に、著作権の行使が制限される範囲を個別に定めており、ウィキペディア日本語版では個別に定められた範囲外で著作権のある画像を使用することが禁止されている。このため、英語版ウィキペディアでは、包括的にフェアユースを認める米国法に基づいて画像が使われているのに、日本語版には一切ないという現象がよくみられる。

参加者

言語版毎のIP利用者(青)とログイン利用者(赤)の編集回数の比率。日本語版は(ja)。2007年12月調べ。

日本語版の大きな特徴の一つは、編集をする利用者のうち登録せずにいる利用者の比率が高いことである[4]。2007年12月時点で、編集回数の約40%はログインしない利用者(IPユーザー)によるものであり、これは主要10言語のウィキペディアのうちで最も高い割合となった(右グラフ参照)。2010年にはIPユーザーの比率が5割近くとなっている[5]。

アンドリュー・リーは、他言語版およびウィキメディアプロジェクト群全体の国際コミュニティとウィキペディア日本語版コミュニティとの間の連携が強まっていない原因の一つが、この登録済み利用者の少なさだと指摘している[4]。たとえばウィキメディアの国際会議、第1回ウィキマニア(2005年)において、ウィキペディア日本語版からの会議出席者はわずか2名であり、より編集者数の少ないオランダ語版や中国語版からの出席者数にも及ばなかった[4]。

記事新設数と編集回数

ウィキペディア日本語版の新規記事作成数推移

1日当たりの記事新設数は日本語版設置後順調に伸び続けたが、2007年3月の469件をピークに減少傾向にあり、2008年5月の1日当たりの記事新設数はピーク時と比較して49%減の240件にとどまった[6]。2009年1月に一時300件台を回復したが再び減少に転じ、2008年5月以降は一部240件台もあるものの、概ね200件台後半で推移していたが、2010年5月以降は再び減少傾向に転じ、2011年5月以降は概ね150件前後で推移している。2012年8月にはピーク時以降で最小となる131件を記録した[7]。2013年4月現在の日本語版の記事新設数は143件であり、内部リンク数上位10言語版(英語版、ドイツ語版、日本語版、スペイン語版、フランス語版、ポーランド語版、イタリア語版、ロシア語版、ポルトガル語版、オランダ語版)の中で内部リンク数ではドイツ語版に次ぐ3位につけているものの、記事新設数では10位である[6]。

ウィキペディア日本語版において月に5回以上編集した利用者数の推移(赤)

1か月間に5回以上編集した利用者は2007年1月以降4,000名から5,000名の間で推移し、2008年1月に最高の4,989名に達した[8]。月に100回以上編集した利用者は2007年1月以降概ね400名から500名程度で推移し、2007年3月に最高の566名に達した[9]。しかし、どちらも2008年1月前後を境に緩やかに減少傾向にある[10]。特に、月に100回以上編集した利用者の減少の方が著しい。2013年4月に5回以上編集した利用者は4,164名[8]、100回以上編集した利用者は352名で[9]、内部リンク数上位10言語版のうち、5回以上編集した利用者数は5位[8]、100回以上編集した利用者は7位である[9]。

ウィキペディア日本語版の編集回数推移(2013年の最大値を100として表示)

1か月当たりの総編集回数は、2007年3月と10月の53万1千回をピークに活動中の利用者の減少と同様に緩やかに減少しており、2008年1月から5年2ヶ月に渡り50万回に達した月がなかったが、2013年3月に一時的に55万9千回に達した。しかし、翌月には再び50万回を切っている[注 3]。全体的な傾向としては、年々減少を続け、特に2013年5月からは2006年3月以来保っていた月間編集30万回を割り込むようになった[11]。さらに2013年8月以降には25万回台の月が何度も現れるようになった[11]。これらのことから、日本語版は一時的な活動活発化が見られることはあるものの、全体的な活動低下傾向が長く続いていることが分かる。

また記事の増加が著しかった時期によく見られた1人の利用者が速いペースで次々に記事を編集していく行為は少しずつ鳴りを潜めていっていることが窺える。

連携

言語間リンクが同規模の他言語版に比べると少ない[12]。2009年8月時点の日本語版の言語間リンクは320万リンクであり、内部リンク数上位10言語版のうち最下位である[12]。2008年10月20日現在の記事のダンプデータによると、言語間リンクを一つも有しない記事は約28万件あり、当時の総記事数約51万件[注 4]の半数以上に上る[注 5]。これは日本特有の事象を挙げた記事が多いのも一つの要因である。また、日本語がラテン文字を使わない言語であるために、他言語版の執筆者が日本語版の記事名および記事本体をまったく読めず、他プロジェクトからの支援を受けにくいという事情もある。

運営

他言語版の上位10のうち7言語版は、その言語の主な使用国内に個別の協会(ウィキメディア財団#ローカル・チャプター)を持つのに対し、日本語を主に使用する日本国内には国別協会がない。管理者陣は単なるユーザーグループで、多くが匿名である(→Wikipedia:日本語版ユーザーグループ)。

課題

コンテンツ上の課題

信頼性

収録されている項目数は一般の百科事典を上回るが、学者らにより執筆される書籍の百科事典と比較して内容の信頼性を疑問視する声もある[3]。ウィキペディアは間違いや問題のある記述がなされた場合、それを善意の利用者らが修正して精度を高めるという考えに則っているが、プロジェクトの匿名性と、何を記事化するかは個々人に一任される完全な自由主義、徹底された民主制のため、悪意ある書き手を防ぎ切れないという指摘がある[13]。また、後述する編集合戦による(記事の編集が禁止される)編集保護の状態が長く続くことにより、誤りや問題のある記述が公開され続けることや[14][15]、「百科事典」として当然書かれるべき事や外部の、それなりに権威あるウェブサイトもしくは新聞・通信社において報道されている事実などが項目により記述が認められないことについて運営の偏向性を指摘する声もある[16]。しかし査読制度を執らないウィキペディアは“内容の信頼性”は利用者の質に左右される。また、常に改変できるシステムを採用しているため記事が完成・確定されることは(永久に)ない。ウィキペディアのいくつかの言語版においては紙媒体やCD、DVDとしても発行されている[17]が、日本語版では同様の動きは起きていない。一部には土木学会による組織的な活動のような「主要項目を網羅・充実させよう」という動きがあるものの[18]、他の多くの学術団体でこのような動きはほとんどなく、一般ユーザーを含めてもまだ本格化していない。

2009年9月末の日本語版[注 6]と『日本大百科全書』を対象とし、同辞典の「日本の政治問題」に収録された132項目とそれに相当するウィキペディアの記事で定量比較を行った研究がある。全体的な傾向としては一つの記事の平均記述量は日本大百科全書1083.3文字に対してウィキペディア3531.5文字[注 7]であるが、「日本の政治問題」に収録されている項目でウィキペディアには全く見つけることができないものが15項目あった。また、「日米安全保障条約」「教科書裁判」のような記事でも当時は日本大百科全書の方が長い記述文字数で、ユーザーの関心や適切な参考文献を得にくい記事は短くなる傾向にあると推定されている[19]。

この他、出典(参考文献)を明記した記事が非常に少なく、2008年10月20日時点の記事のダンプデータによると、タグを用いたインライン形式の出典(脚注)を設けた記事は45,676件である。これは、当時の総記事数511,877件[注 4]の8.9%である。脚注を補足説明に使っている記事もあるため、出典が明記されている記事はこの数よりも若干少ないと考えられる。参考文献が示されている記事もあるが、記事のどの部分がその文献からの情報によるものかはっきりしないことがある。ウィキペディアが掲げている三大方針のうちの「検証可能性」を満たしている可能性があり、かつ出典がどの部分に対応するのか明らかになっている記事は、データの解析の上では全体の1割程度である。

また、後述されているような宣伝や売名行為、荒らしなどによって信頼性への悪影響が懸念されている。

なお、インターネット市場調査会社のアイシェアが2007年11月に行ったアンケート調査では、「ウィキペディアの内容を信用するか」という設問に対し「信用する」と回答した人は4割弱(39.4パーセント)に留まり、6割以上の人はあまり信用していないことが分かっている[20]。信用されない理由としては「内容が改変できる」が40パーセント、「中立的な立場ではないと思える」が38パーセント、「調査機関が関わっていない」が9.8パーセントとなっている。

宣伝的・改竄的投稿

ウィキペディアの知名度にあやかり、また検索エンジン最適化がされていることを悪用し、若手起業家(青年実業家)や中小企業、インディーズ系バンド・アーティストのメンバーや関係者、売り出し中のクリエイター、果てはカルトなど世間から眉を顰められる類いの団体までが、「箔付け」すべく自身に都合の良い宣伝をする、逆に不都合な記述は削除する等いわゆるプロパガンダ目的での編集がされることがあるとの指摘がある[21][22][23][24][25]。例えば、アスキー創業者で元社長の西和彦は、自身に不都合な事実について、何が正しい情報であるのかを明示することなく、デタラメな記述をされたということで自ら大量削除を行った。これに対し、自身に不都合という理由だけで削除するのはウィキペディアの方針に反するものだとする一般利用者との間で論争となった。その後、西は、西に不都合な事実を「誰でも編集できる」編集方針は「嘘で嘘を塗り固めているようなもの」だとして、「2ちゃんねるもウィキペディアも同じようなもの」と主張した[26]。

官庁のIPアドレスからの事実関係の修正を越えた改竄的編集も指摘されている。内閣府の内部からのアクセスでは猪口邦子元男女共同参画担当大臣の項目から批判的な文言が削除され、総務省からのアクセスでは、「入国管理局」の項目で外務省や旧厚生省を揶揄するような表現を挿入する編集履歴がある[27]。文部科学省のIPアドレスからは、本間正明・元政府税制調査会会長に関するスキャンダルが削除され、宮内庁からは同庁に関連する疑惑の指摘を削除した跡も見つかった[28]。

行政機関などによる編集

2007年、Wikipediaを編集した組織や企業が分かるツール「WikiScanner」の日本語版が公開され、同ツールを利用した調査で総務省や文部科学省、宮内庁などから、行政に関わる内容からエンターテインメント関連まで、さまざまな内容について編集があったことが判明した。中には行政に批判的な内容を削除する編集も含まれた。総務省からは、「電子投票」の項目が10回以上編集され、電子投票のセキュリティーに関する内容が書き換えられているほか、テレビ番組の企画を詳細に説明する書き込みや、ゲームに関する書き込みもあった。文部科学省のIPアドレスからは、同省が作成したサイトを「かなり充実している」と自画自賛する編集があった。厚生労働省からは「薬物」などの項目で編集があったほか、アダルトゲームの項目で解説を書き加える編集もあった。宮内庁からは天皇陵や歴史関連の編集があった。農林水産省からは、ガンダム関連で大量の書き込みがあった[28]。

プライバシー侵害や名誉毀損の投稿

芸能人や著名人などの記事において誹謗、中傷などの名誉毀損的記述がなされたり[14][15]、著名人に加え一般人についても、本人や家族、親類に関する非公開の個人情報、不祥事などを書き込んだりして他者のプライバシーを侵害する投稿がなされることがある[29]。

こうした傾向は対外的なものであるとは限らず、ウィキペディアの利用者が他の利用者の実名やそれに類するものの記載をし、その結果、無期限の投稿ブロックを受けるといった事態も発生している。

また、刑事事件の関係者の実名やプライバシーが書き込まれることも多い。英語版などでは問題とされていないが、日本語版では日本法との兼ね合いからほとんどの場合削除となる(Wikipedia:削除の方針#ケース B-2:プライバシー問題に関してを参照)。

存命中の人物や活動中の組織に対する誹謗中傷(であると当人・関係者から指摘される)に類する加筆に対し、項目本人・当該団体から訂正の申し入れが、該当ページのノートページやWikipedia:連絡先にたびたび寄せられるようにもなった。書き手は正義の告発を意図していると見られる場合もあるが、日本においてはたとえ事実であっても社会一般に広くに認識されていること以外は名誉毀損とされる虞があり訴訟リスクが高いため、対応に苦慮することになる。 以下は実例。

産経新聞論説委員の古森義久は自身の記事中の中傷的記述について、自身のブログで「(ウィキペディアが)私の日ごろの言論が嫌で嫌でたまらない左翼分子の誹謗のフォーラムとなっている」と批判した[30]。

脳科学者の茂木健一郎は自著でウィキペディアを「内容が充実した便利なサイト」として紹介している[31]が、自身や養老孟司の記事についての問題点をそれぞれのノートページで訴え[3][4]、そのことを自身のブログでも紹介した[32][33]。

クライン孝子は、自分に関する誤記を訂正しようとして作成したアカウントが「本人の宣伝となる」という理由で無期限ブロックを受け(ブロック理由は本人証明の記述が「パスワードの公開」とされたため。削除提案を参照)、ウィキペディアを「匿名記述が可能である故の限界か」「八卦見の感覚で見なければならないようだ」「提訴しようか」とブログで批判している[34]。

小谷野敦もやはり誤記訂正を「宣伝」「荒らし」「本人である保証がない」とされ、アカウントが1か月ブロックされる。

物理学者の大槻義彦は、自分の項目に“スカラー電磁波は静電気のことと答えた”とオカルティストに書き込まれた(実際には「そんなものは物理学のどこを探してもありはしない、強いて言えば静電気の類だろう」と答えている)。このため、「放置できない。不必要な項目を全面削除して凍結するか項目すべてを削除するかを検討中」とコメントしていた[35]。

イオンド大学からは“関係者”を称する人物により法的措置を予告しての抗議申し入れがなされ、これにより同団体に不都合な部分が削除される事態になった(ちなみに同団体がディプロマミルであることは周知の事実)。

ジェンダーギャップ

日本語版を含むウィキペディアを運営するウィキメディア財団によると、ウィキペディアの編集者の約9割を男性が占めていると推定されている[36]。記事については、全世界のウィキペディアの人物記事のうち男性の記事が8割を占め、女性の記事は2割に留まっている[36]。日本版のウィキペディアでは女性の記事の割合が比較的多く22.3%と世界で14番目だが、自身もウィキペディアの編集者の1人である武蔵大学准教授の北村紗衣は、日本ではAV女優や声優など男性目線での女性に関する記事は多いものの、女性の芸術家や科学者の記事は少ないと指摘している[37]。

「ウィキペディアにおけるジェンダーバイアス」も参照

運営上の課題

編集合戦・記事の保護

複数の利用者が、特定の記述を巡り、記述する内容や記述すること自体の可否を争い、お互いに自身を是、相手を否とする内容に何度も差し戻す編集合戦と呼ばれる事態がしばしば起こる。こうした編集合戦を止め、話し合いによる解決のために管理者により記事の編集ができない保護という処置が取られるが、合意になかなか至れず、記事が長期に渡り編集できない状態になってしまうことがある[注 8]。また、ニュースなどになった事件や事故について、速報的な記述をする利用者とそれに反対する利用者の意見が対立したり[38]、百科事典に載せるに値する特筆性(著名性)があるか否かについて意見が分かれ、削除すべきがどうかの論議になることもある。他の言語に比べて、保護、半保護(アカウントがない、若しくはログインしていない匿名ユーザーの制限)とされている項目の比率が高い。

また、分野によっては非常に細かな内容まで記されている分野もあるが、逆にまったく未執筆の分野も多い。また、編集合戦にまで至らないものの、書籍としての百科事典の概念にどれだけ忠実であるべきとする意見と新しいウェブサイト上の百科事典の可能性を追求するべきとする意見が対立を起こすこともある[38]。

荒らし

記事の内容にまったく関係ない投稿や、記述をするなどのいたずらなどの荒らし行為も増えている。これに対してはIPユーザーによるものが多いため、ログインした利用者のみが編集できる「半保護」という処置が取られることが多い。具体例としては、あるロックミュージシャンの身長に関して根拠のない内容を記入する荒らし行為が広範囲に発生し、半保護などの処置が取られた[39][40][41]例が挙げられる。また、不祥事が発生した人物や話題となった事柄の記事に編集が集中するケースも多く、例として「高輪ゲートウェイ駅」での編集合戦が挙げられる[42]。

犯罪予告

これまで爆破予告や殺傷予告など、犯罪予告に類する書き込みがなされることもあった。このような書き込みがなされた場合も、削除の手続きが行われる。なお、2009年6月と同年8月には逮捕者も出ている[43]。

プロジェクトの運営形態

作業内容の負担の大きさから管理者数が不足している[5]。プロジェクト内の犯罪予告案件を通報していた管理者の「海獺」は、「2010年時点で最低100人は管理者が必要」と指摘している[5](2013年5月現在56人)。なお、2009年末に管理者を増やすキャンペーンなどが行われたものの[5]、結局2014年3月現在管理者数約50人程度にとどまっている。ただし、削除者のような管理者の権限の一部を持った者が、管理の補佐をするようになっ

ページ公開日: 2021-01-30 
ページ更新日: 2021-01-30